酒場遺産
ディープジャパン。今や都市開発の中で消えようとしている古くから続く酒場。日本の生活文化が凝縮されている酒場を「酒場遺産」と名づけた。これから十年後、ここで紹介する酒場のうちいくつが残っているだろうか。
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
天七(北千住西口 串カツ立呑立喰)
北千住は常磐線、日比谷線・東武伊勢崎線、千代田線が乗り入れるターミナルである。綺麗な駅ビルが建ち、一軒近代風の街であるが、駅から出てちょっと歩けば、庶民的な飲み屋街の界隈がある。若者向けのお洒落なところと、昔ながらの下町が、古いものと新しいものが、気持ちよく入り混ざっているように見える。

路地を入れば
 西口側に降りるとすぐに飲み屋のひしめく路地がある。この街こそ私の探している酒場の宝庫だ、と直感する。すぐに「立呑処 アサヒビール 天七」「串カツ専門店、お勤めご苦労様、今日も串カツで一杯」と書かれた大きな臙脂色の暖簾が目にはいる。このところ、店構えと暖簾だけで自分達の探している種の酒場かが分かるようになってきた。暖簾の上には店の間口一杯の幅の大きな看板があり、酒の銘柄とともに「関西風串カツ、今日も串カツで一杯」とある。暖簾の下からは、開け放したサッシで、まだ四時だというのに立ち呑みの男達の脚が見える。

立ち食い立ち呑み
 暖簾をくぐるとすでに十人以上の男達がカウンターで串カツで酒を呑んでいた。この店の構造はちょっと変わっている。約六十平米ぐらいの正方形に近い平面の店内の中央には、串上げのためのキッチンがあり、白い割烹着を着た四人の中年の男と、紅一点、ひとりの若い女が、忙しそうに注文を取っている。串を焼いているのはそのうちのひとりで、串に刺さった具に、山盛りにされたパン粉を串にまぶし、そのまま油の煮えたぎっているステンレス製の串揚げ器につっこむ。取り出した串を、バチンとステンレスの板にたたきつけ、余分な油を切る。

 中央のキッチンを立ち呑みのカウンターが三方を囲む。座る席はない。お客のキャパシティは、道路側八,サイドが八,奥が十くらいだろう。土曜日だからだろうか、ほとんどはひとりで来ている客で、黙々と食べているが、若いカップルや、勤め帰りの会社員のグループもいる。カウンターは二段になっており、キッチン側の少し高いカウンター部分に串をおくためのステンレス製のトレイがおいてあり、客側の低いカウンターにはひとりにひとつづつ、ソースのたっぷりと入ったやはりステンレス製の深い容器と、キャベツの入った同じ形の容器が並べられている。このキャベツは食べ放題で、パリッとして旨い。店内には串のメニューの他、何種類ものアサヒビールの美人ポスターがたくさん張ってあった。

どれも旨い関西風串カツ
 私たちはたくさんの串カツのメニューから、レバー・牛カツ・レンコンをオーダーしたが、どれも相当に美味しかった。特にレンコンは歯応えがよく、味も悪くない。ちなみにこの店には、飲み物の他には串カツしかない。若鶏、メンチボウル、鰺、レンコン、豚カツ、牛カツ、ハム、ウインナー、レバー、イカ、キス、鶉、チーズ、ポテト、大蒜、玉葱、長ネギ、生椎茸、茄子、シシトー、ピーマン、お新香。全て、ひと串百二十円で、ひとりふた串からオーダーできる。店内の壁には、「ソースの二度付けはお断り。カウンターに肘をつかないで。」と書いてある。お客がみんなで使うソースに食べかけの串カツをつっこむなということだろう。しかしこれも性善説の上に成り立っている。「二度付け・・」の文言を見て、大阪梅田の駅構内にある串カツのスタンドバーを思い出した。以前、現場の仕事帰りに先輩に連れて行ってもらったことがあるが、やはり「二度付け禁止」の文字が大きく書かれていた。「肘をつかないで」というのは、肘をつくまで酔っぱらう前に店を引き上げろ、ということなのだろうか、と想像する。実際にカウンターは肘をつくには低すぎる。

 キッチンの作業をよく見ていると、串揚げというものは実にシンプルだ。素材を串に刺してパン粉をつけて油に浸けるだけである。素材が何であっても、工程は同じである。キッチンの道具もとてもシンプルだ。この商売はきっと初期投資が少なくて済むに違いない。さすが「関西風」と書かれているだけあって、店のつくり、容器の機能、キッチンのつくり、値段設定なども、大変合理的だ。業務プロセスがシンプルなのだ。店の人に灰皿をもらおうとすると、床に落としてください、といわれる。それを聞いて、粋だな、と思った。飲み物は、酎ハイ三百円、ハイボウル四百円、生ビール第七百円、中五百円、瓶ビール四百五十円。私と連れは、ビール大瓶と日本酒の熱燗を二合飲んだ。大関の一合瓶に入った呑みやすい酒だった。

三十年以上前からやっていた
 隣のサラリーマン風のグループの男が、突然話しかけてきた。「何か書いていたから取材かと思ったよ。」と言う。それをきっかけに話しているうちに段々とうち解けてきた。男は、もう三十年近く通い詰めているという。それ以前からこの店はあったが、最近まで酷く汚かったという。カウンターも道路側だけで、店自体、小さかったらしい。そのころの汚い店に是非来てみたかったと思った。今は店を改装して、裏通りには分店も設けて商売を広げている。男は、これからまた別の店で友達と呑むために待ち合わせているという。気楽にはいることのできるこの立呑処は、いわば街のウェイティングバーのようなものかも知れない。彼らと一緒に写真を撮ったりしているうちに、ほろ酔い気分になってきた。九百円の勘定を済ませ、風俗の呼び込みの男や女達が立つ喧噪の路地に出た。(志)
20051203235653.jpg

スポンサーサイト
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
body> このごろ酒場や居酒屋の本が充実してきました。私は太田和彦氏、吉田類氏、大川渉氏の本を愛読しています。中でも大川渉氏らの著した「下町酒場巡礼」は名著。紹介されている酒場の幾つかはこの10年間に姿を消しました。 https://www.fis.jfma.or.jp/fis/front/htm/research/scm10/image/scm10_2003wwp_dallas_illust.pdf