酒場遺産
ディープジャパン。今や都市開発の中で消えようとしている古くから続く酒場。日本の生活文化が凝縮されている酒場を「酒場遺産」と名づけた。これから十年後、ここで紹介する酒場のうちいくつが残っているだろうか。
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永見(北千住西口居酒屋グルメ)
北千住西口すぐの路地に串カツの「大七」と小さな路地を挟んで、大衆酒場「永見」がある。一見、新しい店構えだが、寺のようにお札がべたべたと貼ってある。格子の窓から覗くと、とても庶民的で活気のある店内の様子が伺えた。これは、と思い中に入ってみれば、「いらっしゃいっ」と威勢の良い声が聞こえてくる。酒好きが集まってくる最上の酒場であることが分かる。壁に貼られた無数の手書きの紙のメニューが圧巻である。恐らく百種を越えているのではないかと思う。店の従業員に聞けば、この通りでは一番古い店で、創業して六十五年たつのだという。元々、戦前は酒屋だったものが、戦後、立ち呑み屋を経て、現在の酒場になったらしい。

店にはいると、土曜日のためかまだ五時過ぎだというのに、ほとんど満席で、入り口に近い厨房に向かって備え付けられているカウンター席では、ひとりで来ている常連とおぼしき男達が鮪のぶつ切りを旨そうにつついていた。入って手前左側と遠くのスペースには、テーブル席が並べられている。客のキャパはカウンターに約十五,手前のテーブル席が十二,奥は二十五くらいだから、一階全部で五十から六十席くらいだ。二階を合わせると百四十席くらいあるという。客層は、ひとりで呑んでいる常連の年輩者に加え、若い女性やカップルも多い。平日の夕方などは、通勤帰りのサラリーマンで混雑するのだろう。

 店に入ったところには、カウンターの上に招き猫と、無数の皿が積み上げられている。その上には、相撲の番付表のように立派な木製の、ゴルフ番付なるものが飾ってある。やはりカウンターに置かれたショーケースの中には、刺身を中心とする早出しのつまみが積み上げられ旨そうだ。主人の永見富治さん(六十二歳)に訊けば、ちょうどこの日、四月二十七日の朝日新聞、川の手版に、大きくこの店が採り上げられてたといって、親切に新聞を見せてくれた。北千住では、「大はし」と人気を二分する酒場らしいことを記事で知った。

魅力的な二代目と三代目
 主人の永見富治さんは、店では二代目と呼ばれていた。朝日新聞の記事によれば、十二年前に富治さんの母親のふでさんが八十三歳で亡くなるまでは、彼女がこの店の顔だったという。一代目は四十年前になくなったという親爺さんだろうか。二代目の富治さんは白い割烹着のファッション、禿頭にねじりはちまき、お客への気の使いよう、店のものへの指示の出し方全てに渡って、完璧な「大衆酒場の親爺」であった。このご主人の江戸っ子らしい気っ風の良さと、人なつっこい笑顔に引かれて常連客となるものも多いという。この酒場を舞台としている俳優のようだ。ご主人の活躍は店内だけに留まらず、千住七福神をつくろうと町おこしを考えたり、浅草三社祭で御輿を担いだりもしているらしい。

 三代目と呼ばれている若旦那の充氏は、年の頃二十代後半か三十歳そこそこの、まだナイーブでシャイな感じの残る好青年である。二代目のようにタオルではちまきをしているが、こちらはねじりはちまきではなく、よく若者がするようなバンダナ風に巻いたものだった。この親子、とても対照的だが、ふたりとも好感が持てる。今のような時代の変わり目には、年輩者が自信を失って、若者ばかりが目立つものだが、こうした酒場では、知恵と技と経験を持つ親爺さんが全てを支配している。善し悪しは別として、ちょっと前まで、世の中はこんな感じだったんだろうと、懐かしい気さえした。

絶品の千住焼きと鳥軟骨つくね焼き温泉卵付き
 料理の種類が半端ではない。これは町屋の常磐食堂に匹敵する数である。しかも、どれもが旨いという。私たちは、この店で一番人気の千住揚五百円、二番人気の鳥軟骨つくね焼き温泉卵付き四百五十円を頼んだ。両方とも絶品であった。千住揚げはこの店のオリジナルで、大蒜入り五百円と大蒜なし四百五十円がある。大蒜入りを頼んだら、直径五センチくらいの円形の練り物が三個乗った皿がきた。揚げたての矛矛の千住揚げを一口かじると、とても柔らかく、大蒜の香りが効いた汁がジュッと出た。材料は玉葱と葱のみじん切り、そして大蒜を加えて魚の練り物で固めたものを揚げたのだと思う。大蒜の辛さが効いている。とにかくも美味しい。出も一番美味しかったのは、鳥軟骨つくね焼き温泉卵付の方だ。味が濃いので好きずきだが、軟骨のコリコリした食感とつくね自体の旨さ。そしてこれに温泉卵のトロリとした黄身をかけ、濃いめの特製ソースの味とミックスして、最高の美味しさだ。この他にも食べたいものはたくさんあったが、今日のところは腹八分目、このあたりまでとした。

 酒は熱燗を頼んだが、これもなかなか良かった。広島の酒「酒将一代」の生酒六百円。湯飲みのような陶器の一合のカップになみなみと注れ運ばれてきた。どちらかといえば甘い酒だが、味がしっかりしていて、呑むほどに手応がある。勘定はふたりで二千五十円。町屋食堂ほどではないしろ、内容を考えればかなりリーズナブルだった。

多彩な料理
 この店の多彩な料理は、主人の永見さんが奥様と全国を旅して歩き、そのアイディアを探したものだという。地酒も多い。男山、高清水、一の蔵、初孫、旭山、米百俵、北雪、立山、真澄。どれも一合で五百五十円である。他の飲み物は、日本酒一代二百三十円、生酒六百円、ビール第四百五十円、生ビール大七百円、小五百五十円。ハイボウル三百三十円、ジャンボチューハイ四百九十円。料理は数多いが、価格は四百円から五百円のものがほとんどだ。げそあげ四百円、大蒜丸揚げ四百円、イカの一夜干し四百五十円、鯖の一夜干し四百五十円、鳥のスタミナ焼き四百五十円、バクダン奴四百五十円、鮪ブツ四百五十円、真蛸刺し五百円、鮪ゆっけ五百円、わさび白魚四百円、北塩らっきょう四百円など。オリジナリティの高いラインアップだ。日曜日、祭日、第三土曜日は休業。三時半から十時半までの営業で、土曜日は三時まで。またひとつ素晴らしい店に出逢い、嬉しい気持ちになる。ご主人の人を逸らさない笑顔がとても素敵だった。(志)
牧島酒店看板

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body> このごろ酒場や居酒屋の本が充実してきました。私は太田和彦氏、吉田類氏、大川渉氏の本を愛読しています。中でも大川渉氏らの著した「下町酒場巡礼」は名著。紹介されている酒場の幾つかはこの10年間に姿を消しました。 https://www.fis.jfma.or.jp/fis/front/htm/research/scm10/image/scm10_2003wwp_dallas_illust.pdf