酒場遺産
ディープジャパン。今や都市開発の中で消えようとしている古くから続く酒場。日本の生活文化が凝縮されている酒場を「酒場遺産」と名づけた。これから十年後、ここで紹介する酒場のうちいくつが残っているだろうか。
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大黒屋(押上 ホッピーには氷を入れない)
ディープ度***、食と酒*****
押上から錦糸町方面に5分ほど南へ歩くと、住宅街を通る「業四市場商栄街」の立つ一角に大黒屋がある。実に良い感じで街の区画に填っている。訪れたのは7月最後の日、珍しく夜は涼やかな風が吹いていた。大きな暖簾を下げた角地に立つ大黒屋は引き戸が開け放なたれ、その佇まいが実に美しい。店内は伝統的なコの字型カウンター。奥に厨房があり、親父さんと奥さんが忙しく働いている。親父さんは大黒屋の2代目。店には先代のモノクロの写真が飾ってある。本所の大黒屋創業から58年、この場所に店を開いてから38年。父親のやっていた店をサラリーマンをやめて継いだのだという。
生ホッピ-390円、白・黒・ハーフの生ホッピーである。ジョッキは霜がつくほど冷やしてあり、そこに冷たい生ホッピーを注ぐ。目から鱗のホッピーの旨さだ。氷を入れるのは邪道だという親父さんはホッピー屋とのつきあいが一番長いのは俺だという。だがこれは先代の発明。自分が発明したのはレモンハイ。瓶詰めのレモンサワーではなく生レモンを搾りソーダで割ったレモンハイは親父さん自身の発明という。確かに旨い。お通し100円、昆布の煮物。 もつ焼き5本で450円。これはふつう程度。煮込み420円、これは旨い。大きめのサイズの臓物はよく煮込まれており絶品といって良いだろう。お新香はキュウリの浅漬けで、かなり気を遣って仕込んでいるのがわかる。そして最高なのはレバ刺し450円だ。脂ののったレバーは実に新鮮で旨く、親父は生姜の他に、生大蒜を添えてくれた。雰囲気、接客、料理、そしてオリジナルの生ホッピー。最高の酒場だった。
土曜日定休。営業時間5時から9時まで、ラストオーダーは9時半。その理由を親父に訊ねたら、9時までに来たお客さんには、9時半までオーダーできて当たり前だろう、という真っ当な答が返ってきた。考えてみれば全くその通りだ。筋が通っているのだ。

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大林 (日本堤燻銀酒場)
ディープ度*****、食と酒**
7月下旬、隅田川花火大会の人の群から抜け、隅田川沿いから南千住へ吉野通り沿いを歩いた。日本堤1丁目。すぐ裏は山谷。ディープ東京のど真ん中だ。時折、フラフラと廃人のように通りの歩く高齢の労務者を見かける。あんな様子では力仕事もできそうにない。
吉野通りに面して、「大林」の堂々たる暖簾が目に入る。築60年という燻銀の酒場。暖簾をくぐると右手に使い込まれた無垢板のカウンター、左手にはテーブル席がある。格子の天井は高く、床は土間。きわめて質素で骨太のつくりだ。突き当たりには神棚がある。カウンターの正面の壁は、白紙にかかれた無数のメニューで埋め尽くしている。これが実に美しい。カウンター席に座ると、主人が無愛想に注文を訊いてくる。牛もつ煮込み400円、淡い色のアッサリした味付け。葱ぬた300円、鮪も入っていて旨い。モロキュウ250円、細く切り方が特徴的。そのほか、刺身、かつ煮、豚肉生姜焼きなど。酒は日本酒より焼酎が無難か。

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伊勢籐(神楽坂 美意識の和空間)
ディープ度*****、食と酒*****
伊勢籐は神楽坂を飯田橋から上がり、坂が終わり掛けたあたりを右手の石畳の路地を入った右手に、ひっそりと在る。低い軒が印象的な民家風の和建築だ。内部の空間の美しさは比類ない。暖簾をくぐると土間にL字型の木製のカウンターがあり、ひとりの客はここで店主と言葉を交わしながら酒を呑む。右手と左手に6畳から8畳程度の座敷があり、右手の部屋は坪庭と一体化している。
床に飾られた掛け軸。一輪の花。夏でも冷房はないが、坪庭からの冷気が軽く吹き抜ける。東京でもっとも美しい酒場のひとつだろう。

お通し(ホヤ塩辛・貝の粕漬けなど3品)豆腐と青菜の味噌汁がまず出される。酒は燗酒と常温。美しい形の徳利とお猪口で出される「白鷹」は、呑み口が良い。ビールはない。その他、明太子、イナゴ、烏賊の黒作、くさや、皮剥、エイのひれ、たたみいわし、丸干、みそ田楽、納豆、豆腐。選び抜かれ絞り込まれたメニューだ。新宿区神楽坂4-2。17時から21時半営業。土日祝休。

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三祐酒場(舟曳元祖酎ハイ酒場)
ディープ度**、食と酒***
舟曳川通りから京成線の踏切をわたると、昔懐かしい町並みが広がる。「キムラヤ」の看板。小さな和菓子店。入母屋の立派な構えの銭湯「曳舟湯」もすぐ近くだ。この店は小綺麗でオヤジ酒場といった感じではない。年輩の女性3人が手際よく料理をつくる。店は新しいが、創業75年の老舗だ。元祖酎ハイの店でもある。この元祖酎ハイは「姉妹品」という柑橘系の入った酸味の強い酎ハイとともに、メニューの中でも特別扱いだ。味はアッサリとして呑みやすい。この日、生昆布煮付け350円、海苔の三杯酢300円、馬刺550円を頼むが、どれも品よく、旨かった。

酒は、前述の元祖酎ハイ300円、その姉妹品350円。生ビ-ル中480円、瓶ビ-ル大500円、真澄550円、栄川500円など。食事は、馬刺550円、貝柱刺身400円、赤イカ刺身550円、アサリバタ-550円、鱈白子450円、おしんこ250円、煮込み380円、枝豆500円、鰺酢400円、生姜350円、ジャガバタ-350円、串カツ450円、手羽唐揚げ400円、さんま塩焼き450円、馬刺550円、貝柱刺身400円 赤イカ刺身550円 アサリバタ-550円 鱈白子450円など。お通し50円。日祝日、第3土曜定休。17時~23時営業。

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赤坂酒場(舟曳駅前やきとん酒場)
ディープ度***、食と酒***
舟曳は、浅草から来る東武伊勢崎線と東武亀戸線がぶつかり、半蔵門線が乗り入れ大手町まで15分程度、近くには形成押上線も走り交通至便な場所にあるが、下町の風情を残す不思議な町である。駅付近は計画性なく開発されたビルの隙間に駅舎や自転車置き場、パチンコ屋などが無秩序に詰め込まれ、また鉄道の高架がクロスする不快な空間だ。交通の便の良さに目を付けたのか、駅前ではこの町に似つかわしくない巨大なタワーマンションが計画中である。そんなマシンエイジの名残のようなジャイガンティックな構築物の隙間に、優しい下町の生活が息づいている。何台も続いたような和菓子屋、魅力的な酒場、格式ある銭湯も多く見られる。

赤坂酒場は、舟曳駅のほど近い舟曳川通りに面して立つ。「赤坂酒場」という堂々とした看板。左手はテーブル席、右手はしっかりとした使い込んだ木製のカウンター。訪れたときには、若い定員がてきぱきと注文をこなしていた。この日、友人とふたりで軽くやきとん、煮こごり、豆腐入り煮込みを食した。それも意外とアッサリ系だが、ミノは形も味も良く旨かった。赤坂地ビールは特にこの店とは関係ないと言うが、しっかりとした味でなかなか良い。カウンターの上には、池波正太郎の小説の一節、福沢諭吉を題材にした小説などが飾られている。

酒は、ビ-ル大500円、赤坂地ビ-ル550円、酎ハイ300円、八重寿秋田(正一合)300円、菊姫にごり550円、伊佐美600円、魔王600円。食事は、牛ハツ刺し350円、牛レバ刺し350円、ハチノス刺し500円、牛カルビ大串390円、牛タン塩290円、牛ハラミ大串250円、やきとん1本100円程度(ミノ、ハツ、カシラなど)、トン足450円、牛ミノ炒め450円、牛ハツ長ネギ炒め500円、水ギョウザ280円、豆腐入り煮込み350円、おしんこ350円、塩ラッキョ280円など。(消費税別)日祝日定休。17時~23時営業。

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岩金酒場(東向島二丁目 曇硝子のオーラ)
ディープ度****、食と酒***
舟曳、一押しの店。曳舟駅から四ツ木方向へ曳舟川通りを10分くらい歩き、灯りもまばらになった頃、左手にこの店が現れる。曇りガラスの引き戸の向こうにはカウンターに座っている賑やかしいお客の影が動く。引き戸の手前には「大家岩金酒坊」の暖簾が掛かる。造作のない構えだが、良い酒場のオーラが立ち上がる。それは、魅力的な酒場の予感だ。この演出が意図的なものなら見事だ。店に入ると、近所の常連が賑やかに酒と会話を楽しんでいる。自然体の素晴らしい酒場だった。

酒は、ハイボ-ル300円、ビ-ル大瓶530円、日本酒350円など。ハイボールは炭酸の瓶がついていて、自分で調整できて嬉しい。食事は、目刺し丸干し300円、アナゴ煮400円、なすみそ400円、、鯖塩焼き350円、ギンナン焼き350円、湯豆腐鍋600円など。日祝日定休。

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body> このごろ酒場や居酒屋の本が充実してきました。私は太田和彦氏、吉田類氏、大川渉氏の本を愛読しています。中でも大川渉氏らの著した「下町酒場巡礼」は名著。紹介されている酒場の幾つかはこの10年間に姿を消しました。 https://www.fis.jfma.or.jp/fis/front/htm/research/scm10/image/scm10_2003wwp_dallas_illust.pdf