酒場遺産
ディープジャパン。今や都市開発の中で消えようとしている古くから続く酒場。日本の生活文化が凝縮されている酒場を「酒場遺産」と名づけた。これから十年後、ここで紹介する酒場のうちいくつが残っているだろうか。
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江戸っ子(聖橋袂おでん屋台)
★ディープ度**、食と酒**
お茶の水駅近く聖橋の脇に「江戸っ子」という赤提灯の屋台がある。この付近には、もうひとつ老女の牽く屋台があったが、約半年前から姿が見えない。元々客のつかない不人気の店だったが、老女が体を壊したためらしい。凍える冬も覆いのない小さな屋台でギリギリの様子だったから無理もないだろう。さて「江戸っ子」。以前は聖橋の南側、駅のすぐ脇の端の付け根のアルコーブ(凹)となっている部分に長い間、夜な夜な現れていたのだが、最近は聖橋北側に移った。店の親爺に理由を聞くと、南側は千代田区、北側は文京区。千代田区所管の警察官が年度末の手入れで屋台を追い出し、文京区側に来たという。不思議なことに文京区側に来てからは、その警察官は来ないという。「文京区の所轄が来たら、また端の南に行くさ」と笑う。端の北側では千代田線とJR間の乗換客を掴まえられず客数は半減したという。今は常連だけらしい。「江戸っ子」は親爺個人の物ではない。浅草の居酒屋「江戸っ子」のお茶の水支店なのだそうだ。店主も今の親爺の前はもっと若い人だったから、社内の人事異動なのだろう。
寒い時期には、店をビニルで囲うが、公共の鉄製の大きなベンチを上手く利用している。美しく堅固な石造りの凹空間に上手く納まっている屋台の様子がいい。病院やオフィスの並ぶ硬質なこの通りの風景の中で、赤提灯の灯りと街灯の光を反射する柔らかなビニルが美しい。
メニューはおでんのほとんどは150円、250円。牛筋などは400円。飲み物は350mmの缶麦酒(スーパードライ)、日本酒(剣菱)、酎ハイが500円。おでんは薄い味付けで特に上手くも不味くもない。味よりも空気を楽しみたい。先日、立ち寄ったときは、店のテレビで「シャル・ウイ・ダンス」がはじまり、常連客たちとおでんをつつきながら、11時半まで2時間半、最後まで見てしまった。主人は商売気もなく一緒にテレビを見ている。これではさぞかし儲からないだろうなと思った。
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弁慶 (三ノ輪 ビル狭間の下町酒場)
★ディープ度**、食と酒***
昔ながらのアーケードが印象的な三ノ輪商店街近く、裏道からビルの狭間を入っていくと、早い時間から「酒処一寸一ぱい」という赤提灯が見える。安普請の居酒屋だが、中は大きなコの字型カウンターは、既に地元に常連客で一杯だった。休日の夕方、威勢の良い会話が飛ぶ。中央の鍋には濃茶色の煮込み汁に4種の串刺しモツが投げ込まれている。一串たったの40円。4-5串も頼めば、結構なつまみになる。メニューは200-500円くらいでボリュームがある。春キャベツの浅漬け200円、鮮度の高いキャベツが旨い。厚揚げ卵350円、坊主狩りの若い店主が葱を刻み卵をフライパンで揚げる。厚揚げというよりオムレツ風。ナポリタン350円、つまみとしてはどうかと思うが結構、客には人気がある。筍の煮物350円、少し甘めの味付けの筍は懐かしい味。ポテトサラダ300円、手づくりの素朴な味付だった。熱燗一合350円、麦酒大瓶500円、酎ハイ250円など。設えは飾り気もなく、店の歴史を感じさせるわけでもない。下町の今の時間を生きるリアルな場所だ。心暖まる時間だった。
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安井佃煮店 (三ノ輪商店街 佃煮屋の店頭で呑む)
★ディープ度**、食と酒の満足度***
安井佃煮店は酒場ではない。しかし、この店の店頭の小さなベンチで、麦酒を飲みながら、焼き物や無数の種類の佃煮をCOD(cash on delivery)で楽しむことができるのだ。下町の気楽な空気の中、店のオヤジと話をしながら、この場所で過ごす時間は最高だ。
安井屋の佃煮は「荒川のお薦め品33」にも選ばれている名品だ。また店頭では、ねぎま、レバー、大蒜鶏などの焼き鶏類、鰻の串焼き、揚げ立てのコロッケ、そして伽羅蕗、蝗、白子などの佃煮の数々がグラム単位で量り売りしているが、105円で小さなお試しパックもあり、麦酒のつまみには丁度良い大きさだ。営業時間は9時から6時半前で。水曜定休。南千住1-15-14。03-3891-0645。商店街の入口に位置している。明るいうちから訪れてみたい。

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店名不詳 おでん屋台 (上野不忍池畔南側)
★ディープ度***、食と酒の満足度**
深夜、不忍池の畔を歩いた。上野の杜がネオンでぼんやりと明るい空に真っ黒なシルエットとなる。人気のない池の南縁に、「おでん」と書かれた屋台の赤提灯が闇の中で光っていた。店主とひとりの中年の客がその灯りに照らされて立っていた。僕はその脇に割り込み、熱燗と大根・蒟蒻・牛筋を頼む。角が丁寧にカットされた綺麗な大根だった。


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大統領 (上野ガード下 アジア喧噪酒場)
★ディープ度****、食と酒の満足度*
上野駅から御徒町方面へ山手線沿いに南下すると、そこはまさしくアジア。ガード下にあるモツ焼きで有名な「大統領」は、酒場遺産で紹介する他の渋くて燻し銀の酒場ではない。酒も食もこれといって旨いものはない。しかしこのいい加減な半外部空間の魅力には抗しがたいものがある。下世話なアジア的喧噪が上野のこのあたりに集約されている。台北の龍三寺裏のいかがわしい路地を思い出させる。生蛍烏賊470円、ガツ刺し470円、レバ刺し470円、モツ煮込み420円、鰯刺身420円、白子酢520円。

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大勝 (浅草牛筋煮込通り)
★ディープ度**、食と酒の満足度***
田原町から国際通りを北に歩き、浅草ロック方面に入り少し歩くと、道の両側に屋台のように開放的な居酒屋が並ぶ通りがある。冬の夕方にこの通りを歩くと、ビニルで仕切られた酒場から湯気と煙が濛々と立ち上がり、店内から零れる電球の灯が暖かい。その一軒に入った。牛筋煮込みとホルモンの旨い店だった。牛筋煮込600円、牛煮込500円、豚足450円、肉じゃが650円、銀たら800円、辣韮400円、明太子800円。

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ぼるが (新宿西口老舗無頼酒場)
★ディープ度***、食と酒の満足度****
昭和24年創業の老舗焼鳥屋。焼鳥の他、タン・カシラ・ハツなど豚モツ6種。鮮度がよく旨い。20年ほど前、職場の先輩に連れられて初めてこの店を訪れた。作家や役者が集まる少しアナーキーの雰囲気が好きになり、それ以降度々この店で呑むようになった。道路に面したモウモウと煙立つ焼き場の脇の戸を開けると、すぐ左手に煙に蒸されたような分厚い木のカウンター。そして左手奥に店は奥深く拡がっている。縄文的とも言える無骨な造りだ。2階は土間と座敷になっていて、季節の良い時期などは窓を開放すると気持ちよい。すぐ近くのジャズ酒場「バガボンド」と共に、60年代の空気を残している。
名物のばん焼き(焼鳥の盛合せ、500円)は食感・味とも良し。他のつまみもほとんど500円程度。ヌタ盛り合わせはお勧め(写真)。冷やしトマト(500円)、ポテトサラダ(500円)。ビール大瓶900円、生ビール中グラス500円。日本酒は10種程度でマニアックなセレクト。東京都新宿区西新宿1-4-18。03-3342-4996。午後5:00~11:00、日祝休。
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舟武 (旗の台南口絶品釣り魚料理)
★ディープ度*、食と酒の満足度*****
古い酒場ではないが、素晴らしい店なので紹介したい。東急旗の台南口を降り、すぐ左手の線路をまたいで商店街を歩く。約50m先の寿司屋の角を左に曲がるとすぐ右手に「舟武」の木製の看板が見える。この店の主人は、以前、房総で釣った魚を市場を通さずに店で出していたらしいが、店で忙しくなった今でも、釣り魚を直接、千葉県千倉港からの自前ルートで仕入れているという。だから、毎日釣れる魚によってメニューが違う。特に刺身の盛り合わせなどは、主人に任せると良い。値段からは想像できない新鮮な地魚が出される。刺身・焼き魚・煮魚・各魚のすり身で作った「タタキ揚げ」、舟武特製のタレに漬け込んだ「づけ丼」(鮪か鰯)。ひとり4000-5000円で楽しめる。主人と奥さん、そしてイケメンの息子さんの家族で運営している、暖かく良心的な店である。品川区旗の台5-7-9。03(3785)1719。念のため予約をしておいた方がよい。
http://www.funatake.com/welcome.html

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みますや (神田司町創業明治38年)
★ディープ度****、食と酒の満足度*****
都内の酒場の中で、酒・料理・酒場空間どれをとっても最高の酒場のひとつ。鶯谷の鍵屋、荻窪のやき屋、虎ノ門の鳥でん、町屋のときわ食堂と並ぶ存在だと想う。明治38年創業の老舗。料理はリーズナブルで、どれをとっても間違いなく旨い。柳川鍋800円、牛煮込み600円、ばい貝やわらか煮500円、季節のぬた400円、牛にこみ600円、さくらさしみ1300円、どぜう丸煮600円、肉豆腐400円、刺身盛合せ1500円。酒は灘の名高い白鷹本醸造二合 800円、立山、八海山本醸造が一合750円。その他、磯自慢、日置桜、南部美人、くどき上手、いずれも750円。焼酎はダバダ火振り、魔王、佐藤など750円。
店は土間の叩きに木製のテーブルが並ぶ。奥の左手には座敷があり、とても居心地がよい。人気の店なので、予約を取っていった方がよい。03-3294-5433、03-3295-4371。千代田区神田司町2-15。営業時間は17時から23時。日祝休。
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斎藤酒場 (十条北口艶酒場)
★ディープ度*****、食と酒の満足度****
北区上十条2-30-13。JR十条駅北口ロータリー右手の十条銀座プチロードを入り、20mくらい歩くと、すぐ左側に「創業昭和三年 大衆酒場 斎藤酒場」と暖簾が出ている。昭和の妓楼を思わせる店構え。元々は酒屋だったが、戦争で男手がなくなり、残った女性で酒屋の一角で酒を飲ませるようになったのがこの店の始まりだという。テーブル席は10席が2台、8席が3台。厚みのある木のテーブルだ。古いポスターが貼られた異次元の空間。くらげ刺300円、串かつ200円、石もちフライ250円、ポテトサラダ200円、カレー野菜コロッケ200円、ハイボール250円、泡盛210円、澱酒180円。

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大坪(南千住南口ガード下激安酒場)
★ディープ度*****、食と酒****
南千住駅南口。北星に拡がる高層団地の未来的な光景と対照的な、吉野通り沿いのこのエリアには、山谷あたりから労務者風の男達がフラフラと宛もなく歩いている姿をよく見かける。大坪はディープなこのエリアの中でも、最もディープな店のひとつだろう。南千住駅を出てすぐのガード下である。
大正12年創業。大きなコの字型のカウンターを囲んで賑やかな宴が毎夜繰り広げられる。威勢の良い二代目主人と、フラメンコを踊るような軽快な足取りで店を仕切っている女将が、店の雰囲気をつくっている。この店は全てが安い。納豆おろし、目玉焼き、卵焼き、チーズなどは200円。この他つまみの多くは100円から200円台が中心。ウーロンハイは主人が茶葉を買入れ計量している。酎ハイは炭酸(日本シトロン)で割り、たったの200円。大衆酒場の魅力に溢れた店だ。
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富士(荻窪北口バラック大衆食堂)
★ディープ度**、食と酒の満足度***
荻窪北口商店街。荻窪北口バラック街の古色蒼然としたアーケード。その中ほどに富士食堂はある。以前、丸の内線から中央線に乗り換え帰宅の途中に、時々この食堂に立ち寄った。日替定食、肉豆腐定食、焼き魚定食、野菜炒め定食など、450円から700円くらいで良心的。天井からつり下げられた古く小さいテレビを見ながら、麦酒を傾け定食でも食べていると、何十年前かに戻った錯覚を憶える。料理は美味いが、時々飯の炊き方を間違えるのか、極端に柔らかいときがある。店主らしい痩せた髭の男が、気の抜けたような声で厨房にオーダーを掛ける。

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やき屋(荻窪北口バラック絶品立呑み)
★ディープ度*****、食と酒*****
荻窪北口の線路沿い一角のバラック街。ここには実に魅力的な店が多い。その中でもひときわ素晴らしい店を見つけた。立呑み屋「やき屋」だ。酒は小樽の銘酒「北の誉」燗230円。その他、麦酒中瓶380円、ウーロンハイ230円、ホッピー300円など。驚くべきは全品150円という烏賊料理の数々だ。いか刺身、みみ刺身、いかげそ、いか軟骨焼き、いか込み焼き、げそわさ、珍味わたあえ、いか大根、いか納豆・・・。その他、煮込み、しめ鯖、鰻肝焼き、お新香なども絶品。特に、いか大根は烏賊のわたが芯までしみこんだ大根が絶品。もし全品500円でも高い気がしないだろう。レアな烏賊料理だ。東京のベスト酒場。マスターと女将も暖かく素敵な大人だ。
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body> このごろ酒場や居酒屋の本が充実してきました。私は太田和彦氏、吉田類氏、大川渉氏の本を愛読しています。中でも大川渉氏らの著した「下町酒場巡礼」は名著。紹介されている酒場の幾つかはこの10年間に姿を消しました。 https://www.fis.jfma.or.jp/fis/front/htm/research/scm10/image/scm10_2003wwp_dallas_illust.pdf