酒場遺産
ディープジャパン。今や都市開発の中で消えようとしている古くから続く酒場。日本の生活文化が凝縮されている酒場を「酒場遺産」と名づけた。これから十年後、ここで紹介する酒場のうちいくつが残っているだろうか。
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岸田屋(月島 夕方から煮込みを食す)
★ディープ度***、食と酒の満足度****
築地から勝ちどきを抜けて月島に歩くと、運河に漁船がギッシリと浮かんでいたり、銭湯の煙突が突然に現れたりする。かつての島であった地域と、その後に埋め立てられた土地の違いがよく分かり飽きない。月島の商店街を歩くと、もんじゃ焼きの店ばかり並ぶ。でも月島の魅力はもっと深い。濃紺に岸田屋の白い文字を見つける。夕方5時からの開店を待ち、数人が店の前に並んでいる。同好の士といったところか。曇りガラスの引き戸を開けると、コの字のカウンターと壁に向かったカウンターのシンプルな店内。人気のコの字カウンターは、すぐに一杯になる。燻された壁と天井。天井には魚拓、壁には相撲番付。女将さんとその娘が切り盛りしている。
肉豆腐(550円)、ぬた(350円)、鰯ツミレ吸物(250円)、牛煮込み(400円)、はまつゆ(400円)、〆鯖(500円)、煮凝り250円)。酒は百万両、菊正宗、新泉川亀、吉野杉樽酒など。

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鍵屋(根岸 時間が磨く酒場空間)
★ディープ度*****、食と酒の満足度****
鶯谷駅南口からゴチャゴチャした道を抜け、大通りを越え、銀行脇の通りから根岸の住宅街にはいると、民家のような構えの鍵屋を見つける。江戸幕末に言問通に酒問屋として戦後開かれたが、その後、小金井公園内東京江戸建物園に移設・保存されている。店の木槌、甕などの道具、ポスターが古い壁一面に並ぶ。左側には畳の小上がり、右手には主人の座る白木のカウンターがある。背筋のピンとした女性が、箸、お通し、お猪口を配す。鰻のくりから焼(610円)、鳥もつ鍋(660円)、冷奴(490円)、煮奴(550円)、たたみいわし(610円)など。酒は甘口桜正宗のお燗(500円)、辛口菊正宗のお燗(500円)。
特に特別なことはない。しかし、日常の時間が磨き込んだ空間の美しさ、清々しさ、暖かさは他のどこにもない。

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秋田屋 (大門 煙立つモツ焼き屋)
★ディープ度***、食と酒の満足度****
大江戸線で大門へ。「高清水 秋田屋」の看板が見える。オープンエアーの快適な店の顔。昼間から煙がモウモウと立ち、サラリーマンや労務者が路上で立ち呑み立ち食いの楽しい店だ。僕は、四時過ぎから、客がギッシリ座った隙間に席を見つけ、ビールと豚モツ煮、柳葉魚、韮を頼む。隣の夫婦が「僕たちは20年間もこの店に通っているんですよ。」とビールを注いでくれた。会話も弾んだ。メニューはモツ焼きを中心に多彩。てっぽー・レバー・タン・ハツ・軟骨・こぶくろ・ガツ・かしらなど、2本1皿で320円。名物の特製たたきは1本220円で1人1本限定。この他に、牛煮込み、つぶ貝焼き、ホタテ貝焼き、ホヤ酢、豚筋煮込み、くさやなど。酒は、店の看板通り秋田の銘酒「高清水」のみ。旨くて、気楽で、楽しい店だった。
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松風(浅草 凛と美しく呑む)
★ディープ度***、食と酒の満足度****
黒い板張りと白い漆喰の外観。小さな引き戸を開けると、白木の大きいテーブルと右手には赤銅色の湯煎。シンプルで美しい空間。ひとりで杯を傾けている客も多い。渋い大人にための店だ。壁には「お酒は一人三本(三合)まで」とある。出される肴はどれも量は少ないが、旨くて見た目も美しい。
瓶ビール500円。酒は、菊姫・浦霞・真澄・三千盛・田酒・清泉・大七・越の影虎・賀茂鶴・菊正宗などの玄人好みのラインナップ。甘いから辛いまで順に並んでいる。一合注文する毎に違う種類のアテが付く。650円から680円と少々高めだが、酒を呷るような店でもない。おでん(蒟蒻と練物の二串、350円)酔うわけでもないし、腹が一杯になるわけでもないが、凛とした気持ちになる店。浅草に着いたら、まず訪れたい店。どこかの料理屋へ繰り出す前の、ウェイティングバーとして考えてもよいだろう。

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魚三酒場(門仲 新鮮激安酒場)
門前仲町から永代通りを東へと約5分歩く。富岡八幡宮の参道の反対側に魚三酒場という大きな暖簾が掛かる。いつも客が店の前に群れているからすぐに分かる。
店は至ってシンプル。コの字型のカウンターが2列。壁一面に貼られた無数の短冊メニューがインテリアそのものだ。鰤つゆ(100円)、焼蛤(390円)、めごち天ぷら(350円)、穴子白焼き(380円)、ぶりかま(480円)、鰹刺身(400円)、生蛸の刺身(400円)、梭子魚天ぷら(400円)1、キス天ぷら(350円)、あら煮(50円)、中とろ刺(680円)。多くが300円台と激安。生ビール大(600円)、生ビール小(400円)、生酒冷300ml瓶(580円)、熱燗(180円)など。
安くて旨いが、女将の接客は厳しい。長い髪の女性客には輪ゴムを渡され「髪を縛りなさい」と言われることも。気にせず、元気な酒場の掛け合いをBGMに、マイペースで食と酒を楽しめば大丈夫だ。
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カッパ(荻窪北口バラック カウンターでヤキトリ)
荻窪北口バラック街の中。雪がちらつく寒い夜に訪れた。こんな寒い日でも引き戸は開けられて、外気が入ってくる。それがまた良いのだ。焼き場を囲む10人程度がやっと座れるコの字型のカウンター。煙で燻され飴色になった天井や壁。コンパクトでよく考えられた美しい店空間だ。常連客が多いが誰でも気楽に立ち寄れる。若い女将がひとりで手際よく仕切っていた。メニューはヤキトリのみとシンプル。カシラ・ガツ・シロ・レバ・タン・ハツ・トロ・マメ(腎臓)・リンゲル(膣)・ホーデン(睾丸)・チレ(脾臓)など。刺しでも頼める。飲み物は瓶ビール(大540円・小370円)、熱燗(1級330円・2級270円)、焼酎(280円)、デンキブラン。店の空間が魅力的。シンプルイズザベスト。
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佐原屋(御徒町ガード下鰻寝床空間)
御徒町駅近くの山手線ガード下の酒場。この並びには御徒町・上野界隈ならではのディープな酒場が並ぶ。佐原屋は創業58年。店は間口が狭くウナギの寝床のように奥行きのある構成。列車の車内を思わせる。店にはいると、右手に長さ20メートルはあろうか、長いカウンターがあり、客は一直線に並ぶ。奥の方の左手には厨房があり、配膳口にもカウンターがあり、常連客が座っていることが多い。湯豆腐、ピーナッツ味噌、大蒜の芽の炒め物、畑のキャビアなど種類も豊富。店のオーナーらしい高齢の女将は愛想がよい。不思議に落ち着く店で、何故か何度も足を運んでしまう魅力のある店だ。03-3831-6388
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ニューカヤバ(茅場町40年前のまま立呑み)
茅場町の永代通りから運河(亀島川)沿いの路地に入ったところある。大きな赤提灯が掛かる駐車場の奥に、縄暖簾が掛かる立ち飲み屋がある。以前、この通りを歩いたときに、まさかガレージの奥に酒場があるとは思わなかったが、今日は北海道から来た友人らと一緒にはじめて訪れた。
茅場町には不思議な酒場が実に多い。40年前に開店したというニューカヤバは、恐らく当時のまま時間が止まっているのだろう。教室のようなガランとした店に無造作に置かれたデコラの丸テーブル。古いポスター。100円コインを入れると酒が落ちてくる古色蒼然としたウィスキーや焼酎の自動販売機。焼鳥は奥にある焼台でセルフで焼く。ニューカヤバを訪れた人は、こんな酒場が残っていたことに驚くだろう。かなり呑んで食べても2000円を超えない。
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和光(茅場町の不思議貝焼屋台)
友人の紹介で実に不思議な酒場を訪れた。茅場町の永代通りから八丁堀方面に少し裏通りに入った所にある。「会員制」の小さな張り紙。曇りガラスの内側に赤提灯の明かりが幽かに見える。店であるかも外からはよく分からない。戸を開けるとソコには土間にリヤカーの屋台が無造作に置かれ、網で貝を焼いている。廃屋のような住宅を改造した店の置くには幾つかの小さな部屋がある。築地で仕入れたという活貝は絶品。3000円コースではマテ貝、蛤、亀の手、フジツボ、栄螺、牡蠣、とこぶし等が供される。網で焼くと貝の破片が飛んで土間に散らばる。2000円コースもある。酒は全てセルフサービスで500円。生ビールの他、田酒、酔鯨、七笑、八海山など銘酒が揃っている。一升瓶から自分で竹のカップに注ぐのだ。
この店は築地の料亭「和光」の名を継いでおり、現在の主人は料亭の息子らしい。主人は若いときに音楽活動を行っていたという。店の廊下に置かれた古いピアノで弾き語りを披露してくれる。ミュージシャンの仲間も多く、ロックボーカリスト、ジャズセッション等が時折はいる。不思議にアットホームな空間だ。客はこの廃屋に似合わず、物好きな大人の男女で溢れている。下町っぽくはないが、ディープで魅力的。
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body> このごろ酒場や居酒屋の本が充実してきました。私は太田和彦氏、吉田類氏、大川渉氏の本を愛読しています。中でも大川渉氏らの著した「下町酒場巡礼」は名著。紹介されている酒場の幾つかはこの10年間に姿を消しました。 https://www.fis.jfma.or.jp/fis/front/htm/research/scm10/image/scm10_2003wwp_dallas_illust.pdf