酒場遺産
ディープジャパン。今や都市開発の中で消えようとしている古くから続く酒場。日本の生活文化が凝縮されている酒場を「酒場遺産」と名づけた。これから十年後、ここで紹介する酒場のうちいくつが残っているだろうか。
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大林 (日本堤燻銀酒場)
ディープ度*****、食と酒**
7月下旬、隅田川花火大会の人の群から抜け、隅田川沿いから南千住へ吉野通り沿いを歩いた。日本堤1丁目。すぐ裏は山谷。ディープ東京のど真ん中だ。時折、フラフラと廃人のように通りの歩く高齢の労務者を見かける。あんな様子では力仕事もできそうにない。
吉野通りに面して、「大林」の堂々たる暖簾が目に入る。築60年という燻銀の酒場。暖簾をくぐると右手に使い込まれた無垢板のカウンター、左手にはテーブル席がある。格子の天井は高く、床は土間。きわめて質素で骨太のつくりだ。突き当たりには神棚がある。カウンターの正面の壁は、白紙にかかれた無数のメニューで埋め尽くしている。これが実に美しい。カウンター席に座ると、主人が無愛想に注文を訊いてくる。牛もつ煮込み400円、淡い色のアッサリした味付け。葱ぬた300円、鮪も入っていて旨い。モロキュウ250円、細く切り方が特徴的。そのほか、刺身、かつ煮、豚肉生姜焼きなど。酒は日本酒より焼酎が無難か。

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圓楽 (北千住風俗地帯裏道)
ディープ度**、食と酒***
北千住西口。線路沿いを南へと歩くと、居酒屋と風俗店が一帯となった一帯がある。すぐ目に付くのが「永見」「大七」。その通りをどんどん奥に歩くと、道の両側にギッシリと立ち並ぶ風俗店からの呼込みが掛かる。右手に美術展のポスターがコレデモカと貼られた「鴎外・芭蕉」と書かれたバーがある。「小料理屋」とか枯れているがそうは見えない。その角を曲がり、20mほど歩きまた小道を左手に折れるとラブホテルがあり、その対面に「圓楽」はある。
藍の暖簾と縦格子の渋い店構えに比べ、内部は至って気楽で明るい雰囲気だ。ディープな立地だがノーマルな店だ。「圓楽」という名前は、特に三遊亭圓楽師匠と関係あるわけでもなく、店主が圓楽の熱狂的ファンだったらしい。料理は旨い。ブリ照り焼き500円、鮪ぶる500円、カサゴ刺し700円、鰹刺し550円、酒盗300円、塩辣韮280円、烏賊の沖漬け500円など。麦酒がスーパードライだけなのが残念。
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遠太 (三ノ輪時代懐古酒場)
★ディープ度*****、食と酒****(酒は*)
三ノ輪の昭和通と国際通りがぶつかるあたりから正庭通りへ曲がり少し歩くと、台東区から荒川区東日暮里へと入る。5分ほど歩くと左手に、「やってるぞ 遠太」という看板が目立つ。友人とこの酒場を訪れたのは年度末3月31日。正庭通りは両側の歩道に植えられ桜が満開だった。遠太は「レトロ」と言って良いほど昔の雰囲気をそのまま残した酒場だが、ここには、売らんがための商売気やツクリモノのレトロは何もない。敷地が台形なのか、店とカウンターも台形。店の空間は、天井が高く、右手に小庇についたカウンター、左手には座敷。客はまばら。店はおばあちゃんとその30歳代くらいの女性はその娘だろう。そして小学生くらいの女の子が、遊びながら店の手伝いをしている。客の疎らな店内にはテレビが流れ、非日常的と言っても良いこの酒場空間で、実に日常的な光景が繰り広げられる。
日本酒は残念ながら三増酒。しかし料理は独創的で逸品ぞろい。お勧めは、あじなめろう350円、ニコゴリ350円。ニコゴリは半透明のゲルの中に具が入っている様が美しい。焼き茄子250円、葱トロ450円、厚揚げ250円、焼き明太350円、湯豆腐330円、めごちの天ぷら450円など。居心地の良いカウンターだった。
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亀島 (三ノ輪一丁目泡盛小酒場)
★ディープ度*****、食と酒****
地下鉄日比谷線三ノ輪駅のから明治通沿いに浅草方面に五分ほど歩くと、右手に「清酒大関 亀島」と書かれた看板が控えめに立つ。三ノ輪一丁目二四。紺色の暖簾をくぐり年季の入った硝子戸を開けると、台形のコの字型カウンターと、座布団が縫いつけられた座り心地の良さそうな椅子がカウンターの周りに並ぶ。道が交差した台形の敷地と建物に合わせたカウンターが、酒場の小宇宙を創っている。正面には琉球泡盛の由来と書かれた古い説明書が掛けられている。この店をひとりで切り盛りしている店主の老婆と店の空間がひとつの無駄もなく一体化している。小さくとも品格のある酒場だ。ちなみに女子禁制である。
酒は泡盛40度370円、25度320円。大関・菊正宗共に正一合350円。麦酒大瓶480円、小瓶350円、黒麦酒350円。酎ハイ300円、黒糖焼酎270円。久米仙は逸品。二つ並んだ煤けた甕から柄杓で沖縄徳利に移し、分厚い小さなグラスに注ぐ。泡盛は飲み過ぎると「腰が抜ける」と、ひとり三杯まで。つまみは店主の手料理で、里芋の煮付け、湯豆腐など。どれも旨く、また安い。懐かしい黄金色のアルマイト製の道具が使かわれていた。
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弁慶 (三ノ輪 ビル狭間の下町酒場)
★ディープ度**、食と酒***
昔ながらのアーケードが印象的な三ノ輪商店街近く、裏道からビルの狭間を入っていくと、早い時間から「酒処一寸一ぱい」という赤提灯が見える。安普請の居酒屋だが、中は大きなコの字型カウンターは、既に地元に常連客で一杯だった。休日の夕方、威勢の良い会話が飛ぶ。中央の鍋には濃茶色の煮込み汁に4種の串刺しモツが投げ込まれている。一串たったの40円。4-5串も頼めば、結構なつまみになる。メニューは200-500円くらいでボリュームがある。春キャベツの浅漬け200円、鮮度の高いキャベツが旨い。厚揚げ卵350円、坊主狩りの若い店主が葱を刻み卵をフライパンで揚げる。厚揚げというよりオムレツ風。ナポリタン350円、つまみとしてはどうかと思うが結構、客には人気がある。筍の煮物350円、少し甘めの味付けの筍は懐かしい味。ポテトサラダ300円、手づくりの素朴な味付だった。熱燗一合350円、麦酒大瓶500円、酎ハイ250円など。設えは飾り気もなく、店の歴史を感じさせるわけでもない。下町の今の時間を生きるリアルな場所だ。心暖まる時間だった。
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安井佃煮店 (三ノ輪商店街 佃煮屋の店頭で呑む)
★ディープ度**、食と酒の満足度***
安井佃煮店は酒場ではない。しかし、この店の店頭の小さなベンチで、麦酒を飲みながら、焼き物や無数の種類の佃煮をCOD(cash on delivery)で楽しむことができるのだ。下町の気楽な空気の中、店のオヤジと話をしながら、この場所で過ごす時間は最高だ。
安井屋の佃煮は「荒川のお薦め品33」にも選ばれている名品だ。また店頭では、ねぎま、レバー、大蒜鶏などの焼き鶏類、鰻の串焼き、揚げ立てのコロッケ、そして伽羅蕗、蝗、白子などの佃煮の数々がグラム単位で量り売りしているが、105円で小さなお試しパックもあり、麦酒のつまみには丁度良い大きさだ。営業時間は9時から6時半前で。水曜定休。南千住1-15-14。03-3891-0645。商店街の入口に位置している。明るいうちから訪れてみたい。

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大坪(南千住南口ガード下激安酒場)
★ディープ度*****、食と酒****
南千住駅南口。北星に拡がる高層団地の未来的な光景と対照的な、吉野通り沿いのこのエリアには、山谷あたりから労務者風の男達がフラフラと宛もなく歩いている姿をよく見かける。大坪はディープなこのエリアの中でも、最もディープな店のひとつだろう。南千住駅を出てすぐのガード下である。
大正12年創業。大きなコの字型のカウンターを囲んで賑やかな宴が毎夜繰り広げられる。威勢の良い二代目主人と、フラメンコを踊るような軽快な足取りで店を仕切っている女将が、店の雰囲気をつくっている。この店は全てが安い。納豆おろし、目玉焼き、卵焼き、チーズなどは200円。この他つまみの多くは100円から200円台が中心。ウーロンハイは主人が茶葉を買入れ計量している。酎ハイは炭酸(日本シトロン)で割り、たったの200円。大衆酒場の魅力に溢れた店だ。
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はるのや(南千住放浪食堂)
北千住の引き込み線沿いを歩き西側に行くと、様子は一転して鄙びた様子となる。山谷から流れてきたらしい酔った労務者がふらふらと歩いている。ふと見つけた「はるのや」という名の食堂にはいる。店主の親爺と、酔った客がひとり、何か楽しげにはなしている。この掛け合い漫才のような話に引き込まれ、結局、食事の後酒も奢ってもらい、三時過ぎまでこの店にいた。(志)


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[はるのや(南千住放浪食堂)]の続きを読む
天七(北千住西口 串カツ立呑立喰)
北千住は常磐線、日比谷線・東武伊勢崎線、千代田線が乗り入れるターミナルである。綺麗な駅ビルが建ち、一軒近代風の街であるが、駅から出てちょっと歩けば、庶民的な飲み屋街の界隈がある。若者向けのお洒落なところと、昔ながらの下町が、古いものと新しいものが、気持ちよく入り混ざっているように見える。

路地を入れば
 西口側に降りるとすぐに飲み屋のひしめく路地がある。この街こそ私の探している酒場の宝庫だ、と直感する。すぐに「立呑処 アサヒビール 天七」「串カツ専門店、お勤めご苦労様、今日も串カツで一杯」と書かれた大きな臙脂色の暖簾が目にはいる。このところ、店構えと暖簾だけで自分達の探している種の酒場かが分かるようになってきた。暖簾の上には店の間口一杯の幅の大きな看板があり、酒の銘柄とともに「関西風串カツ、今日も串カツで一杯」とある。暖簾の下からは、開け放したサッシで、まだ四時だというのに立ち呑みの男達の脚が見える。

立ち食い立ち呑み
 暖簾をくぐるとすでに十人以上の男達がカウンターで串カツで酒を呑んでいた。この店の構造はちょっと変わっている。約六十平米ぐらいの正方形に近い平面の店内の中央には、串上げのためのキッチンがあり、白い割烹着を着た四人の中年の男と、紅一点、ひとりの若い女が、忙しそうに注文を取っている。串を焼いているのはそのうちのひとりで、串に刺さった具に、山盛りにされたパン粉を串にまぶし、そのまま油の煮えたぎっているステンレス製の串揚げ器につっこむ。取り出した串を、バチンとステンレスの板にたたきつけ、余分な油を切る。

 中央のキッチンを立ち呑みのカウンターが三方を囲む。座る席はない。お客のキャパシティは、道路側八,サイドが八,奥が十くらいだろう。土曜日だからだろうか、ほとんどはひとりで来ている客で、黙々と食べているが、若いカップルや、勤め帰りの会社員のグループもいる。カウンターは二段になっており、キッチン側の少し高いカウンター部分に串をおくためのステンレス製のトレイがおいてあり、客側の低いカウンターにはひとりにひとつづつ、ソースのたっぷりと入ったやはりステンレス製の深い容器と、キャベツの入った同じ形の容器が並べられている。このキャベツは食べ放題で、パリッとして旨い。店内には串のメニューの他、何種類ものアサヒビールの美人ポスターがたくさん張ってあった。

どれも旨い関西風串カツ
 私たちはたくさんの串カツのメニューから、レバー・牛カツ・レンコンをオーダーしたが、どれも相当に美味しかった。特にレンコンは歯応えがよく、味も悪くない。ちなみにこの店には、飲み物の他には串カツしかない。若鶏、メンチボウル、鰺、レンコン、豚カツ、牛カツ、ハム、ウインナー、レバー、イカ、キス、鶉、チーズ、ポテト、大蒜、玉葱、長ネギ、生椎茸、茄子、シシトー、ピーマン、お新香。全て、ひと串百二十円で、ひとりふた串からオーダーできる。店内の壁には、「ソースの二度付けはお断り。カウンターに肘をつかないで。」と書いてある。お客がみんなで使うソースに食べかけの串カツをつっこむなということだろう。しかしこれも性善説の上に成り立っている。「二度付け・・」の文言を見て、大阪梅田の駅構内にある串カツのスタンドバーを思い出した。以前、現場の仕事帰りに先輩に連れて行ってもらったことがあるが、やはり「二度付け禁止」の文字が大きく書かれていた。「肘をつかないで」というのは、肘をつくまで酔っぱらう前に店を引き上げろ、ということなのだろうか、と想像する。実際にカウンターは肘をつくには低すぎる。

 キッチンの作業をよく見ていると、串揚げというものは実にシンプルだ。素材を串に刺してパン粉をつけて油に浸けるだけである。素材が何であっても、工程は同じである。キッチンの道具もとてもシンプルだ。この商売はきっと初期投資が少なくて済むに違いない。さすが「関西風」と書かれているだけあって、店のつくり、容器の機能、キッチンのつくり、値段設定なども、大変合理的だ。業務プロセスがシンプルなのだ。店の人に灰皿をもらおうとすると、床に落としてください、といわれる。それを聞いて、粋だな、と思った。飲み物は、酎ハイ三百円、ハイボウル四百円、生ビール第七百円、中五百円、瓶ビール四百五十円。私と連れは、ビール大瓶と日本酒の熱燗を二合飲んだ。大関の一合瓶に入った呑みやすい酒だった。

三十年以上前からやっていた
 隣のサラリーマン風のグループの男が、突然話しかけてきた。「何か書いていたから取材かと思ったよ。」と言う。それをきっかけに話しているうちに段々とうち解けてきた。男は、もう三十年近く通い詰めているという。それ以前からこの店はあったが、最近まで酷く汚かったという。カウンターも道路側だけで、店自体、小さかったらしい。そのころの汚い店に是非来てみたかったと思った。今は店を改装して、裏通りには分店も設けて商売を広げている。男は、これからまた別の店で友達と呑むために待ち合わせているという。気楽にはいることのできるこの立呑処は、いわば街のウェイティングバーのようなものかも知れない。彼らと一緒に写真を撮ったりしているうちに、ほろ酔い気分になってきた。九百円の勘定を済ませ、風俗の呼び込みの男や女達が立つ喧噪の路地に出た。(志)
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永見(北千住西口居酒屋グルメ)
北千住西口すぐの路地に串カツの「大七」と小さな路地を挟んで、大衆酒場「永見」がある。一見、新しい店構えだが、寺のようにお札がべたべたと貼ってある。格子の窓から覗くと、とても庶民的で活気のある店内の様子が伺えた。これは、と思い中に入ってみれば、「いらっしゃいっ」と威勢の良い声が聞こえてくる。酒好きが集まってくる最上の酒場であることが分かる。壁に貼られた無数の手書きの紙のメニューが圧巻である。恐らく百種を越えているのではないかと思う。店の従業員に聞けば、この通りでは一番古い店で、創業して六十五年たつのだという。元々、戦前は酒屋だったものが、戦後、立ち呑み屋を経て、現在の酒場になったらしい。

店にはいると、土曜日のためかまだ五時過ぎだというのに、ほとんど満席で、入り口に近い厨房に向かって備え付けられているカウンター席では、ひとりで来ている常連とおぼしき男達が鮪のぶつ切りを旨そうにつついていた。入って手前左側と遠くのスペースには、テーブル席が並べられている。客のキャパはカウンターに約十五,手前のテーブル席が十二,奥は二十五くらいだから、一階全部で五十から六十席くらいだ。二階を合わせると百四十席くらいあるという。客層は、ひとりで呑んでいる常連の年輩者に加え、若い女性やカップルも多い。平日の夕方などは、通勤帰りのサラリーマンで混雑するのだろう。

 店に入ったところには、カウンターの上に招き猫と、無数の皿が積み上げられている。その上には、相撲の番付表のように立派な木製の、ゴルフ番付なるものが飾ってある。やはりカウンターに置かれたショーケースの中には、刺身を中心とする早出しのつまみが積み上げられ旨そうだ。主人の永見富治さん(六十二歳)に訊けば、ちょうどこの日、四月二十七日の朝日新聞、川の手版に、大きくこの店が採り上げられてたといって、親切に新聞を見せてくれた。北千住では、「大はし」と人気を二分する酒場らしいことを記事で知った。

魅力的な二代目と三代目
 主人の永見富治さんは、店では二代目と呼ばれていた。朝日新聞の記事によれば、十二年前に富治さんの母親のふでさんが八十三歳で亡くなるまでは、彼女がこの店の顔だったという。一代目は四十年前になくなったという親爺さんだろうか。二代目の富治さんは白い割烹着のファッション、禿頭にねじりはちまき、お客への気の使いよう、店のものへの指示の出し方全てに渡って、完璧な「大衆酒場の親爺」であった。このご主人の江戸っ子らしい気っ風の良さと、人なつっこい笑顔に引かれて常連客となるものも多いという。この酒場を舞台としている俳優のようだ。ご主人の活躍は店内だけに留まらず、千住七福神をつくろうと町おこしを考えたり、浅草三社祭で御輿を担いだりもしているらしい。

 三代目と呼ばれている若旦那の充氏は、年の頃二十代後半か三十歳そこそこの、まだナイーブでシャイな感じの残る好青年である。二代目のようにタオルではちまきをしているが、こちらはねじりはちまきではなく、よく若者がするようなバンダナ風に巻いたものだった。この親子、とても対照的だが、ふたりとも好感が持てる。今のような時代の変わり目には、年輩者が自信を失って、若者ばかりが目立つものだが、こうした酒場では、知恵と技と経験を持つ親爺さんが全てを支配している。善し悪しは別として、ちょっと前まで、世の中はこんな感じだったんだろうと、懐かしい気さえした。

絶品の千住焼きと鳥軟骨つくね焼き温泉卵付き
 料理の種類が半端ではない。これは町屋の常磐食堂に匹敵する数である。しかも、どれもが旨いという。私たちは、この店で一番人気の千住揚五百円、二番人気の鳥軟骨つくね焼き温泉卵付き四百五十円を頼んだ。両方とも絶品であった。千住揚げはこの店のオリジナルで、大蒜入り五百円と大蒜なし四百五十円がある。大蒜入りを頼んだら、直径五センチくらいの円形の練り物が三個乗った皿がきた。揚げたての矛矛の千住揚げを一口かじると、とても柔らかく、大蒜の香りが効いた汁がジュッと出た。材料は玉葱と葱のみじん切り、そして大蒜を加えて魚の練り物で固めたものを揚げたのだと思う。大蒜の辛さが効いている。とにかくも美味しい。出も一番美味しかったのは、鳥軟骨つくね焼き温泉卵付の方だ。味が濃いので好きずきだが、軟骨のコリコリした食感とつくね自体の旨さ。そしてこれに温泉卵のトロリとした黄身をかけ、濃いめの特製ソースの味とミックスして、最高の美味しさだ。この他にも食べたいものはたくさんあったが、今日のところは腹八分目、このあたりまでとした。

 酒は熱燗を頼んだが、これもなかなか良かった。広島の酒「酒将一代」の生酒六百円。湯飲みのような陶器の一合のカップになみなみと注れ運ばれてきた。どちらかといえば甘い酒だが、味がしっかりしていて、呑むほどに手応がある。勘定はふたりで二千五十円。町屋食堂ほどではないしろ、内容を考えればかなりリーズナブルだった。

多彩な料理
 この店の多彩な料理は、主人の永見さんが奥様と全国を旅して歩き、そのアイディアを探したものだという。地酒も多い。男山、高清水、一の蔵、初孫、旭山、米百俵、北雪、立山、真澄。どれも一合で五百五十円である。他の飲み物は、日本酒一代二百三十円、生酒六百円、ビール第四百五十円、生ビール大七百円、小五百五十円。ハイボウル三百三十円、ジャンボチューハイ四百九十円。料理は数多いが、価格は四百円から五百円のものがほとんどだ。げそあげ四百円、大蒜丸揚げ四百円、イカの一夜干し四百五十円、鯖の一夜干し四百五十円、鳥のスタミナ焼き四百五十円、バクダン奴四百五十円、鮪ブツ四百五十円、真蛸刺し五百円、鮪ゆっけ五百円、わさび白魚四百円、北塩らっきょう四百円など。オリジナリティの高いラインアップだ。日曜日、祭日、第三土曜日は休業。三時半から十時半までの営業で、土曜日は三時まで。またひとつ素晴らしい店に出逢い、嬉しい気持ちになる。ご主人の人を逸らさない笑顔がとても素敵だった。(志)
牧島酒店看板

body> このごろ酒場や居酒屋の本が充実してきました。私は太田和彦氏、吉田類氏、大川渉氏の本を愛読しています。中でも大川渉氏らの著した「下町酒場巡礼」は名著。紹介されている酒場の幾つかはこの10年間に姿を消しました。 https://www.fis.jfma.or.jp/fis/front/htm/research/scm10/image/scm10_2003wwp_dallas_illust.pdf